- AIエージェント
- 自動化の線引き
- 納品の記録
AIエージェントに「やらせない部分」を決める
この記事でできるようになること読み終えると、業務を自動化するときに「どこまでAIに任せ、どこから人が持つか」を自分で線引きできるようになります。
自動化で難しいのは「どこまでできるか」ではなく「どこで止めるか」です。技術的にできることと、やったほうがいいことは違います。実際に納品したスライド生成エージェントでは、テンプレートの選択と文字の流し込みまでは自動にし、イラスト・図版の素材選定はあえて人に残しました。素材が膨大で、機械に選ばせると統一感が崩れるからです。やろうと思えばできます(素材集を整備すれば成立する見通しは立っている)。それでも今回はやらないと決めました。仕上がりは75〜80点を狙う。満点を狙うと、入力の精度が足りないときに破綻します。自動化の設計とは、止める場所を決めることです。
この記事は、実際の納品案件の記録から書いています。会社が特定できない粒度まで落として書きます(社名・個人名・価格・工数は書きません)。相手には、匿名化したうえで題材にすることがあるとお伝えしています。
案件は、研修事業者向けに、講座スライドを自動生成するエージェント一式を納品するというものです。自動化の記事はたいてい「ここまでできた」しか書かれません。この記事は止めた場所とその理由を書きます。
01 · What we automated
何を自動化したか
やっていることは単純です。骨子(章立てと各ページに書く内容)を入れたスプレッドシートを渡すと、過去の講座スライドをテンプレートとして使い、スライド一式が出てくる。エージェントがやるのは2つの工程です。
| 工程 | 中身 | 自動化の可否 |
|---|---|---|
| 骨子を書く | 章立て・各ページの要点を人が決める | 人。ここが品質を決める |
| テンプレートを選ぶ | ページの内容に対して、過去スライドのどの型が合うかを判定 | 自動 |
| 文字を流し込む | 選んだ型に、骨子の内容を配置する | 自動 |
| イラスト・図版の素材を選ぶ | 各ページに合う素材を選び、配置する | あえて人に残した |
この形にした理由は、品質を決めているのが「骨子の精度」だからです。骨子が雑なまま自動化しても、雑なスライドが速く大量に出てくるだけになります。逆に骨子がしっかりしていれば、型の選択と流し込みは機械のほうが速く、ぶれません。
02 · Where we stopped
あえて自動化しなかった1工程
素材選定を自動化しなかった理由は1つです。素材が膨大で、機械に選ばせると統一感が崩れる。
技術的にできないわけではありません。素材集を別途整備して、使ってよい素材を絞れば成立する見通しは立っています。それでも今回はやらないと決めました。判断の理由を分解するとこうなります。
| 考えたこと | 結論 |
|---|---|
| 自動化の効果はどれくらいか | 素材選びは1ページ数十秒。全体の工数に占める割合は小さい |
| 失敗したときのコストは | 大きい。1枚でも浮いた素材が混ざると、資料全体が素人っぽく見える。教材として売る以上、ここは致命傷になる |
| だからどうするか | 効果が小さく、失敗のコストが大きい工程は自動化しない。先に素材集を整備するという順番もあるが、それは別の仕事として切る |
この判断は、自動化の一般則として使えます。「効果 × 失敗コスト」で見て、効果が小さく失敗コストが大きい工程は、最後まで人が持つ。逆に、効果が大きく失敗しても取り返せる工程から自動化していく。技術的な難易度ではなく、この2軸で決めています。
03 · 75-80 points
満点を狙わず「75〜80点」で出す
仕上がりの目安を、自分では75〜80点と言っています。残りは人が直す前提です。これは手を抜いているのではなく、入力(骨子)の精度が品質を決める構造だからです。
満点を狙う設計にすると、骨子が甘いときに「それらしく見えるが中身が薄い」出力が出ます。これがいちばん厄介で、人がチェックを省くようになる。75〜80点で出しておけば、受け取る側は必ず手を入れます。手を入れる前提だと分かっていることが、品質の担保になります。
| 狙う点数 | 起きること | 向く場面 |
|---|---|---|
| 100点を狙う | 入力が甘いと破綻する。人がチェックを省き始める | 入力が定型で、品質が安定している業務 |
| 75〜80点で出す | 必ず人が手を入れる。入力を良くすると出力が素直に良くなる | 入力が毎回違う制作物。教材・提案書・記事 |
04 · Handover
受け取る側が詳しくない前提で作る
納品物はエージェント本体+手順書です。ただ、受け取る側はエージェントに詳しくありません。手順書を書いても、読まれない前提で考える必要があります。
そこで採った形が、「エージェント側が次の操作を案内する」という設計です。手順書を読ませるのではなく、動かすと次に何をすればいいかがエージェントから提示される。ここは作りの手間が増えますが、引き渡した後に使われるかどうかを分けるのはここだと考えています。
作って渡して終わりにすると、半年後に誰も触らなくなります。これは自動化に限らず、社内向けのツールでも同じです。内製と外注の分かれ目についてはAIエージェントの内製化とは?に、実装の手順はAIエージェントを業務に実装するには?に書いています。
05 · The rule
線引きの判断基準
この案件で使った判断を、他の業務にも当てはめられる形にまとめます。自動化の範囲を決めるときは、この4つを順に見てください。
- その工程は、全体の工数のどれくらいを占めるか。小さいなら急いで自動化しない
- 間違えたとき、誰がいつ気づくか。気づかないまま外に出る工程は、人が持つ
- 失敗したときのコストは、やり直しで済むか。信用に傷がつく種類なら自動化しない
- 入力の精度は安定しているか。毎回変わるなら、満点ではなく75〜80点を狙う設計にする
言い換えると、自動化の設計とは「やらせる範囲を広げること」ではなく「やらせない範囲を決めること」です。できる範囲は技術が決めますが、やる範囲は事業が決めます。
06 · FAQ