Column ・ 生成AI活用 / 介護・医療
「現場でAIを使いたいが、患者・利用者の情報を入れて大丈夫か不安」——介護・医療現場で生成AIが安全に効く業務を、記録・文書・企画の3カテゴリと早見表で整理しました。診断ではなく「書く・まとめる」の下書き補助に絞るのが基本です。
介護・医療の現場で生成AIが安全に効くのは、診断や治療の判断ではなく、記録の整形・家族向け文書・レク企画といった「書く/まとめる」業務の下書き補助です。病歴や要介護状態などの要配慮個人情報は入力せず、業務ごとに「入れてよい情報/だめな情報」を判定して使うのが基本。この記事ではユースケース早見表、コピペできるプロンプトの型、そして現場に必ず伝える2つの守り方まで、現場目線で整理します。
Where It Works
介護・医療の現場で生成AIが効くのは、専門職の判断そのものではありません。効くのは、専門職の頭の中にある内容を「読みやすく書く」「短くまとめる」「別の言い方に整える」という、いわば下書き作業です。ここを任せると、記録や文書に取られていた時間が軽くなり、人にしかできないケアや判断に時間を回せます。
逆に、AIに委ねてはいけない領域がはっきりあります。診断、治療方針の決定、要介護度やリスクのアセスメント判断——人の健康や生命に直接かかわる判断(いわゆるYMYL領域)です。生成AIは、もっともらしい誤りを自信たっぷりに出すことがあります。これらの判断は必ず有資格の専門職が行い、AIは使わない、と最初に線を引いておくのが安全です。AIはあくまで「書く・まとめる」の補助にとどめます。
現場で使える「書く・まとめる」業務は、大きく次の3つに整理できます。この記事はこの3カテゴリに沿って、具体例・プロンプトの型・情報の扱いを説明します。
Cheat Sheet
「どの業務に使えて、どこまで情報を入れてよいか」を1枚にまとめました。いちばん右の列(要配慮個人情報の可否)が事故防止の要です。迷ったら、この列に沿って判断してください。
表:介護・医療現場での生成AIユースケースと情報の扱い
| 業務 | 入力例 | 出力例 | 要配慮個人情報の可否 |
|---|---|---|---|
| 申し送り・記録の要約整形 | 匿名化したメモ(氏名は「A様」等に置換) | 読みやすい記録文の下書き | 入れない(匿名化して渡す) |
| 専門用語の平易化 | 家族に説明したい医療・介護用語 | やさしい言い換えの下書き | 原則不要(用語のみ) |
| 家族向け説明文・行事案内 | 行事の日時・持ち物・注意点 | 案内文のたたき台 | 固有名詞は空欄にして入れない |
| 同意文書・お知らせのたたき台 | 伝えたい要点(一般的な内容) | 文面の下書き | 個人情報は不要 |
| 季節レク・進行台本・物品リスト | テーマ・対象像(要介護度の幅など) | レク案・進行台本・物品リスト | 原則不要=最も安全 |
| (不可)診断・治療方針・アセスメント判断 | — | — | 使わない(人が判断する) |
※ 「匿名化」とは、氏名・部屋番号・生年月日など個人が特定できる情報を「A様」等の記号に置き換えること。要配慮個人情報(病歴・要介護状態など)は、たとえ匿名化しても入力を控えるのが安全です(詳細は後述)。
Category 1
記録や申し送りは、書く人によって長さも文体もバラバラになりがちです。生成AIは、走り書きのメモを読みやすい記録文に整える、複数人の記録の文体をそろえる、家族に伝えるために専門用語をやさしく言い換える——といった整形が得意です。事実を作り出すのではなく、すでにある内容を整えるだけなので、下書き補助として相性がよい領域です。
指示は「役割・目的・対象・条件」の4点をそろえると安定します。下の型をコピーし、〔 〕を自分の状況に置き換えてください。
コピーして、〔 〕を自分の状況に書き換えてお使いください。
あなたは介護記録の作成を補助するアシスタントです。 【目的】下記のメモを、簡潔で読みやすい記録文に整えてください。 【対象】記録を読むのは同じ事業所の職員です。 【条件】 ・事実を足さない。書かれていないことを推測で補わない。 ・専門用語はそのまま残す(勝手に言い換えない)。 ・時系列に、箇条書きで並べる。 【元のメモ】 〔ここに匿名化したメモを貼る。氏名・部屋番号は「A様」等に置き換える〕
記録には、氏名・部屋番号・生年月日など個人を特定できる情報が混ざります。AIに渡す前に、これらを「A様」「101号室→〇号室」のように置き換えてから入力します。病歴や要介護状態そのものは要配慮個人情報にあたるため、匿名化してもできるだけ入力を避け、整形に必要な最小限の記述にとどめるのが安全です。
Category 2
家族への説明文、行事の案内、同意書やお知らせの文面——こうした対外文書は、丁寧さと分かりやすさの両立に神経を使い、意外と時間がかかります。生成AIにたたき台を作らせ、人が事実確認と最終調整をする形にすると、ゼロから書くより速く、文面のばらつきも減らせます。あくまで下書きで、送付前に必ず人が確認する前提です。
対外文書は「誰が読むか(対象)」と「入れてはいけない固有名詞」を明示するのがコツです。
コピーして、〔 〕を自分の状況に書き換えてお使いください。
あなたは介護施設の渉外・広報を補助するアシスタントです。 【目的】家族向けの〔行事案内〕の下書きを作ってください。 【対象】入居者のご家族(高齢の方も読みます)。 【条件】 ・やさしく、事務的すぎない丁寧な文体で。 ・専門用語は使わず、日時・持ち物・注意点を明確に。 ・施設名・個人名などの固有名詞は【 】の空欄にし、後で人が記入する。 【伝えたい内容】 〔行事名・日時・場所・持ち物などを箇条書きで貼る〕
対外文書では、施設名・利用者名・職員名などの固有名詞は入力せず、空欄(【 】)のまま出力させて後から人が埋めるのが安全です。文面の「型」だけをAIに作らせ、個人が特定できる情報は現場の紙・システム側で管理する、と切り分けます。特定の利用者の病状に触れる説明文は、要配慮個人情報を含むため、AIに詳細を入れず一般的な文面のみを作らせてください。
Category 3
レクリエーションや行事の企画は、生成AIが最も気軽に使える領域です。季節に合わせたレクの案出し、進行台本、必要な物品リストまで、まとめて下書きを作れます。しかも個人情報を一切入れずに済むため、「まず1回、安全にAIを試してみる」最初の一歩に最適です。出てきた案を現場の状況に合わせて選び、手直しして使います。
参加者の状態像(要介護度の幅、車いすの有無など)を「対象」で伝えると、現場で使える案が出やすくなります。個人名は不要です。
コピーして、〔 〕を自分の状況に書き換えてお使いください。
あなたはデイサービスのレクリエーション企画を補助するアシスタントです。 【目的】高齢者向けの〔季節〕レクの案を5つ出してください。 【対象】要介護度はさまざまで、車いすの方も参加します。 【条件】 ・座ったままでもできる案を優先する。 ・各案に「必要な物品」と「進行の流れ(所要時間の目安つき)」を添える。 ・危険な動作は避け、安全上の注意を一言添える。 【テーマ】 〔例:春・お花見にちなんだレク〕
レク・企画は、特定の個人を指す情報を入れなくても成立します。要配慮個人情報どころか、個人情報そのものが不要。だからこそ、AIに不慣れな職員の練習台としても、事故リスクを気にせず使えます。まずはここから始めて、慣れてきたらカテゴリ1・2へ広げるのがおすすめです。
Protect Sensitive Data
難しいルールを並べても現場は動けません。私が研修で必ず伝えるのは、たった2つの合言葉です。この2つだけでも、事故の大半は防げます。
個人情報保護法では、本人の人種・信条・病歴など、取り扱いに特に配慮を要する情報を「要配慮個人情報」と定めています。病歴(かかった病気・診断・検査結果など)はこれに含まれ、介護・医療の記録の多くは、こうした機微な情報と隣り合わせです。個人情報保護委員会は2023年6月2日に、生成AIサービスの利用について注意喚起を公表し、そのなかで要配慮個人情報の取り扱いに注意を促しています(下記出典)。医療・介護の事業者については、個人情報保護委員会・厚生労働省が「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」を公表しており、随時改正されています。個別の判断は、これら公的資料の最新版と、必要に応じて専門家の確認をあわせてください(本記事は一般的な整理であり、断定的な法解釈を示すものではありません)。
「入れてよい情報・だめな情報」を組織のルールとして明文化しておくと、判断が個人任せにならず、安心して使えます。作り方の手順とそのまま使えるひな形は、別記事にまとめています。
Be Honest
生成AIは万能ではありません。とくに次の3つは苦手なので、任せてはいけません。
導入支援の現場で最初にぶつかる壁は、技術ではなく「うちの仕事のどこで使えるのか、イメージが湧かない」という声です。多くの職員さんにとって、生成AIは「便利らしいが自分の業務と結びつかない」もの。ここを越えるには、汎用的な説明ではなく、目の前の業務で下書きが出てくる様子を実際に見せること、そして最初の数回を伴走することが要ります。だからこそ研修では、その場で申し送りやレクの下書きを作るデモを行い、職種ごとのプロンプト集を特典としてお渡しし、持ち帰ってすぐ使える状態を目指しています。
How to Start
いきなり全部門で使おうとすると続きません。安全設定→ルール→小さく試す→広げるの順で、無理なく現場に馴染ませます。
使うツールの設定で、入力内容を学習に使わない設定に切り替える。
「氏名は A様に置換」「他人に言わない情報は入れない」を全員で共有。
個人情報の要らないレク企画など、最も安全な1業務から始める。
手応えが出たら、匿名化した記録の整形や対外文書へ範囲を広げる。
関連記事:生成AI研修の頼み方・選び方 / 社内ガイドラインの作り方・ひな形
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「うちの現場のどこで使えるか」を確かめる、最初の壁打ちから。売り込みはしません。安全な使い方の設計から、職員が手を動かせる研修まで伴走します。お見積もり・ご相談は無料です。
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