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AIを使うと「自分らしさ」が消えるのはなぜか

AIを使うと「自分らしさ」が消えるのはなぜか — 消さないための線引き

この記事でできるようになること読み終えると、AIで作った文章や資料が「自分のものに見えなくなる」原因を文体ではなく構造の問題として捉え直し、自分の仕事のどこをAIに渡し、どこを手元に握るかを線引きできるようになります。

AIを使うと自分らしさが消えるのは、文体の問題ではなく「渡す順番」の問題です。消えているのは語尾やレイアウトではなく、その人の判断の痕跡——なぜその順番で話すのか、なぜその例を選んだのか、誰に向けて書いているのか——です。AIは学習データの中心へ寄せる性質を持つため、「整えて」と渡すと、いちばん個体差の出る部分から順に平らになります。だから対策は、AIっぽい言い回しを消すプロンプトではありません。①判断・体験・宛先は自分で先に決めて手元に握る、②整形・下調べ・叩き台はAIに渡す、③この順番を逆にしない——この線引きです。この記事は、AI研修を仕事にしている私自身が、自分の失敗を含めて書いています。

「AIで書いた文章を読み返すと、整ってはいるのに、自分のものに見えない」——そう感じたことはないでしょうか。提案書、社内資料、メール。文法も構成も間違っていない。なのに、どこか他人の書いたものを読んでいる感じがする。検索すると出てくるのは「AIっぽい言い回しを消すプロンプト」ばかりですが、語尾を直しても、この違和感はあまり減りません。原因が語尾ではないからです。この記事では、実際に何が消えているのかを定義し直したうえで、消さないための線引きを書きます。

01 · What

「AIっぽい」と言われるとき、実際に消えているもの

「AIっぽい文章」の解説記事の多くは、その正体を表現の癖として説明します。「〜と言えるでしょう」のような保険表現、箇条書きの多用、やたらと整った三段構成。たしかにこれらは目印にはなります。ですが、目印は原因ではありません。

実際に消えているのは、もっと手前にあるものです。私はこれを「判断の痕跡」と呼んでいます。文章や資料には、書いた人が下した判断が必ず残ります。

  • なぜその順番で話すのか。相手が一番気にしていることを知っているから、そこから始めた。
  • なぜその例を選んだのか。自分が実際にそれで失敗したから、その例が出てきた。
  • なぜその話を書かなかったのか。この相手には要らないと判断して落とした。
  • 誰に向けて書いているのか。宛先が一人に定まっているかどうかは、読むと分かる。

この4つは、いずれも「その人が、その相手を、どれだけ具体的に見ているか」から生まれます。そしてAIは、あなたの相手を見ていません。だから「整えて」と渡した瞬間に、ここから順に落ちていきます。落ちた結果として残るのが、あの平坦な文章です。

言い換えると:AIっぽさは文体の症状であって、病気ではありません。病気のほうは「判断を自分で下す前に、AIに完成品を作らせた」という手順のミスです。プロンプトで語尾を直すのは、症状だけに湿布を貼る行為にあたります。

ここが、この記事といわゆる「AI臭を消すテクニック」との一番の違いです。テクニックは、AIに全部書かせたあとで人間らしさを後付けしようとします。この記事が勧めるのは逆で、判断を先に自分で済ませてから渡すやり方です。

02 · Why

なぜAIは平均へ寄せるのか(研究で分かっていること)

これは精神論ではなく、生成AIの仕組みから来る性質です。大規模言語モデルは、学習した膨大な文章の中で「次に来る可能性がもっとも高い言葉」を選び続けます。もっとも高い、ということは、言い換えればもっとも多くの人が書きそうな言葉です。個体差の大きい部分ほど「可能性が高い」判定から外れるので、真っ先に均されます。

この現象は、すでに複数の研究で確認されています。押さえておくと納得しやすい2つを挙げます。

表:生成AIによる「均質化」を示した研究2件

研究分かったこと実務への含意
Doshi & Hauser(Science Advances・2024年)
書き手300名・評価者600名
AIのアイデアを使った書き手は、物語の独創性が上がった一方で、書き手同士の作品の類似度が約10.7%上昇した(AIを使わない群との比較)個人の出来は上がるのに、全体としては似てくる。自分の提案書が「よく書けている」ことと「他社と違って見える」ことは別問題だと分かる
Agarwal & Vashistha(CHI 2025・2025年4月)
参加者118名(米59・印59)
AIの入力支援を使うと、米国とインドの参加者の文章が互いに似ていった。インドの参加者は提案の25%を残したが(米国は19%)、自分の文体や話題に合わせるには大幅な手直しが必要だった多数派から遠い人ほど、AIに引き戻される力が強く働き、戻す手間も大きい。地方の中小企業や、独自のやり方を強みにしている会社ほど注意が要る

※ 出典:Doshi & Hauser, Science Advances 2024;10(28)Agarwal & Vashistha, CHI 2025(Cornell Chronicle の解説)。いずれも「AIを使うな」という結論ではなく、使い方によって結果が分かれることを示した研究です。

1件目で私がもっとも重要だと思うのは、個人と全体で結果が逆を向くことです。一人ひとりの出来は上がるのに、集団としては似てくる。これは、AIを使う人が増えるほど「ちゃんとしている」だけでは差がつかなくなることを意味します。提案書の質が上がったのに受注率が変わらない、という感覚には、この構造が関係している可能性があります。

2件目は、地方で仕事をしている立場としてよく分かる話でした。AIは、学習データの中で多数派だった書き方へ引き戻してきます。北海道の会社が北海道の事情を書こうとするとき、AIは黙って一般論のほうへハンドルを切る。戻す作業は、多数派から遠い人ほど重くなる——これは自分でも毎日感じていることです。

03 · Field Notes

AIを「使いましょう」と言って回っている側の反省

ここからは一般論ではなく、私が実際に見たものと、自分の反省を書きます。

AIにどっぷりハマった、知り合いの経営者がいます。先日その人の提案スライドを見せてもらったのですが、開いた瞬間、思わず固まりました。中身がひどいのではありません。むしろ逆で、隅々まで端正すぎて、その人の顔が一枚も見えなくなっていたのです。整ったレイアウト、それっぽい図解、こなれた言い回し。見栄えはいい。でも、これで本当にお客さんの心が動くのだろうかと、正直、心配になりました。

というのも、私が知っているその人の魅力は、まったく別のところにあったからです。ボキャブラリーは、正直、多くない。プレゼンもお世辞にもうまくない。でも、自分が体験したことを、自分の言葉で、不器用に語る。その不器用さこそが、その人が信頼される理由でした。それが、AIで磨いた瞬間にきれいに消えていた。前章の言い方をすれば、判断の痕跡が全部きれいに拭き取られていたわけです。

ここで白状します。私は、生成AIの研修を仕事にしています。AIを「使いましょう」と言って回っている、張本人です。そのスライドを見て、反省しました。AIの使い方を教えても、その人の良さが死んでしまったら意味がないじゃないか、と。皮肉な話で、AIで効率化したはずが、一番大事なものを削っていることがある。この記事は、他人への忠告ではなく、まず自分に向けた反省として書いています。

もう一つ、自分の手元にある数字を出します。いま書いたのとほぼ同じ内容を、私は6月にLinkedInへ投稿しました。AIで整えず、自分の言葉のまま出したものです。

  • その投稿は、約18日後の時点でインプレッション47,882・いいね476・コメント54でした(2026年6月23日投稿/7月11日再計測)。
  • 同じ時期の私の投稿の中央値は、インプレッション727・いいね58です。表示回数でおよそ66倍にあたります。

正直に書くと、この1本だけで「整えないほうが伸びる」と断定はできません。SNSの拡散は運の要素が大きく、比較実験をしたわけでもありません。ただ、少なくとも私の実感としては、一番反応が大きかったのは、一番きれいに書いた文章ではなく、一番自分の失敗を正直に書いた文章でした。しかも増えたのは「いいね」よりコメントで、返信欄には読んだ人自身の持ち味の話が並びました。整った文章は感心されますが、判断の痕跡が残った文章は、相手にも自分の話をさせるようです。

付け加えると、私はAIを減らしたわけではありません。一人法人の業務はほぼAIエージェントに任せて回していますし、この記事の下書きも、自分で組んだSEOエージェントの調査をもとに作っています。渡す量を減らしたのではなく、渡す順番を変えただけです。それが次章です。

04 · Where to Draw the Line

渡すもの/握るものの線引き

結論から言えば、AIは「平らに整える」道具にも「らしさを増幅する」道具にもなります。分かれ目は、AIの性能でもプロンプトの巧さでもなく、自分の持ち味を自分で分かっているかどうかです。分かっていれば、それを増幅するために使えます。分かっていなければ、AIの平均値が代わりに埋めてくれます。

実務に落とすと、次の線引きになります。

表:AIに渡してよいもの/自分で握るもの

仕事の部分扱い理由
誰に向けて書くか(宛先)握る(AIに決めさせない)宛先が一人に定まっていない文章は、必ず一般論に流れる。AIはあなたの相手を知らない
何を言い、何を言わないか(判断)握る捨てる判断こそが個性。AIは足す方向には強いが、削る判断は代われない
実体験・実数値・現場の話握る(自分で書いて渡す)AIが持っていない唯一の材料。ここを持っていない文章は誰が書いても同じになる
下調べ・情報の整理渡す(出典は必ず自分で確認)速さの効果が大きい。ただし事実確認を渡すと事故る
構成の叩き台・言い換え候補渡す(採用は自分で選ぶ)選択肢を出させるのは有効。採用まで任せると平均へ寄る
整形・誤字・体裁・要約渡す判断が終わったあとの作業。ここは丸ごと任せてよい

※ 表の上3行(宛先・判断・実体験)が、下3行がです。順番が逆になった瞬間に、らしさは消えます。「AIに叩き台を作らせてから自分の色を足す」という進め方が失敗しやすいのは、この順番が逆だからです。

ひとことで:AIを「整えるために」使うと、人は平均値に寄ります。「増幅するために」使うと、持ち味が残ります。同じツール・同じプロンプトでも、判断を先に済ませたかどうかだけで結果が変わります。

複数人の会社では、この線引きを個人の心がけに任せず、文書にしておくほうが確実です。「AIに渡してよい業務・渡さない業務」を決める作業は、社内ルールづくりとほぼ同じ内容になるので、生成AI社内ガイドラインの作り方もあわせてどうぞ。業務そのものをAI前提で組み替える話はAIネイティブとは?AIを前提に会社を回す実務にまとめています。

05 · How to Start

自分の持ち味を言語化する3ステップ

線引きの前提になるのは「自分の持ち味を自分で分かっている」ことでした。ここが曖昧なままだと、握るものが決まりません。難しく考えず、次の3つを紙1枚でやってみてください。所要は30分ほどです。

STEP 01

AI無しで書いた過去の文章を3本並べる

受注できた提案書、反応がよかったメール、書き直さずに出せた文章。うまい下手ではなく「自分で全部決めて書いたもの」を選ぶ。

STEP 02

3本に共通して出てくるものに線を引く

繰り返し出る具体例・断り方・こだわっている順番・自分だけが知っている現場の話。3本に共通するものが持ち味の候補。

STEP 03

「これが消えたら自分じゃない」を一文で書く

一文に落とす。これが、AIに渡さない範囲の定義になる。以後は毎回この一文を先に決めてから書き始める。

STEP 03の一文は、そのままAIへの指示にも使えます。「この一文に反する提案はしないでほしい」と最初に伝えておくと、叩き台の質が変わります。ただし——これはプロンプトの工夫ではありません。工夫したのはプロンプトではなく、渡す前に自分で判断を済ませたことのほうです。

研修の現場では、この3ステップを受講者ご自身の実物でやっていただくことが多いです。ツールの操作説明より、こちらのほうが持ち帰っていただけるものが大きいと感じています(札幌の生成AI研修の中でも扱っています)。

06 · Pitfalls

やりがちな失敗3つ

自分がやった、あるいは現場でよく見る失敗を3つ挙げます。

  • 「AIっぽさを消して」と指示して終わりにする。これは症状の処置です。語尾は自然になりますが、判断の痕跡は戻りません。むしろ「人間っぽく見えるが中身は一般論」という、いちばん見抜かれやすい状態になります。
  • 整いすぎを、良くなったと勘違いする。AIを通すと文章は必ず「マシ」に見えます。だから満足しやすい。前章の研究のとおり、出来が上がることと、他と違って見えることは別です。読み返すときは「よく書けているか」ではなく「これは自分にしか書けないか」で見てください。
  • 不器用さを、直すべき欠点だと思い込む。冒頭の経営者の魅力は、まさにその不器用さでした。AIは欠点をきれいに埋めますが、埋められた欠点が、実は信頼の理由だったということが起こります。何を直さないかを決めるのも設計のうちです。

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07 · FAQ

よくある質問

「AIっぽさを消すプロンプト」は効果がないのですか?+
効果はあります。ただし効くのは文体までです。保険表現や過度な箇条書きは実際に減らせるので、仕上げの工程としては有効です。問題は、それを対策の中心に据えてしまうことです。文体が自然になっても、宛先・判断・実体験が入っていない文章は「読みやすい一般論」にしかなりません。プロンプトは最後の整形に使い、判断は渡す前に自分で済ませる——この順番でお使いください。
結局、AIは使わないほうがいいということですか?+
いいえ、逆です。私自身、一人法人の業務のほとんどをAIエージェントに任せて運用していますし、この記事の下書きも自社のSEOエージェントの調査をもとにしています。記事で引いた研究も「AIを使うな」ではなく、使い方で結果が分かれることを示したものです。減らすべきなのはAIの量ではなく、判断を渡してしまう場面です。
自分の持ち味が何なのか、そもそも分かりません+
その状態がいちばん多いと思います。だから記事に3ステップを入れました。ポイントは、頭で考えずに過去の実物から探すことです。AI無しで書いて反応がよかった文章を3本並べ、共通して出てくるものに線を引く。自分では欠点だと思っていた部分(回りくどい・細かすぎる・慎重すぎる)が候補に挙がることも多く、それは他人から見ると信頼の理由になっていることがあります。
社員にAIを使わせると、全員の文章が似てきませんか?+
対策をしなければ、その方向に進みます。記事で引いたDoshi & Hauserの研究は、まさに「個人の出来は上がるが、書き手同士は似てくる」ことを示したものです。会社として効くのは、プロンプト集を配ることより、AIに渡してよい工程と渡さない工程を決めて共有することです。具体的な作り方は生成AI社内ガイドラインの記事にまとめています。
この線引きを自社に当てはめる相談はできますか?+
はい。自社の強みがどこにあり、どの工程までAIに渡してよいかの整理から、研修や社内ルールへの落とし込みまで伴走します。自社の業務も実際にAIエージェント化して運用している立場で、道具の話ではなく業務の設計としてご一緒します。北海道・札幌を拠点にフルリモートで全国対応しています。ご相談の流れはこちら
原駿介(合同会社ゼネラリスト代表)のプロフィール写真

原駿介(はら・しゅんすけ)/ 合同会社ゼネラリスト 代表

北海道・札幌を拠点に、中小企業の生成AI導入・業務効率化・AI研修・外部AI顧問をフルリモートで支援。Claude Code を用いたAIエージェント設計が強みで、自社の業務も実際にエージェント化して運用している。行動指針は「先義後利」。

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